先人の知恵・技・雨仕舞に脱帽です。

近年では、あまり目にすることが出来なくなった茅葺屋根ですが、屋根の原点がここに詰まっています。多くの人は、古臭外観美にかけると思うでしょう。

しかし屋根職人の目線で分析すると、先人の知恵と技に関心させられます。 春夏秋冬問わず快適な適温を保つことの出来るハイブリッド屋根です。

茅葺屋根とは

茅葺屋根は茅と呼ばれるイネ科のススキを束ねて葺いた屋根の事を言います。この茅葺屋根は一見、雨漏りしやすそうに見えますが実は見た目に反して雨漏りしないのです。屋根に使われる茅は枯れたススキを手作業で刈り一つの束にします。草刈り機で刈ると上下がバラバラになってしまい大変な為、全て手作業で行います。また、ススキだけではなく他の植物が入ってしまうので、ススキのみにする為仕分けをして一つの束にするという大変な手間と時間がかかって茅葺屋根の茅は出来るのです。

(ススキの他にもヨシや小麦・稲などがあります。小麦や稲は耐久性悪く長持ちはしません)

茅葺屋根の特徴

茅葺屋根のの特徴は耐久性が高く、雨水が建物内部に侵入しにくい構造になっている事でする。耐久性に優れた茅葺屋根の耐用年数は30年と長く、中でもススキではなく、ヨシを使用した茅葺屋根の耐用年数は40年以上と言われてます。 基本的に雨漏りを防止するため急勾配の屋根で茅の束を何層にも重ねた屋根の厚みがあり、屋内は吹抜けで天井が高く通気性・吸音性・断熱性・保温性に優れ「呼吸する屋根」と言われています。

そして茅葺屋根の費用相場は1000~2000万円と推定されています。費用が高価になる理由としては、高品質なヨシやススキの価格が高騰したことと、茅葺屋根を葺ける職人がほとんどいない為でしょう。

なぜ雨漏りしないの?

雨漏りしない説

( )内は私のツッコミ、独り言

  • 茅が厚く葺かれているので下まで浸み込むのに時間がかかるから。 (下まで浸み込む前に半分迄浸み込んだら雨水と茅の重量で潰れるだろう(笑))
  • 雨で濡れた茅が膨張して隙間を塞ぐから。 (隙間を塞ぐほど膨張って、どんだけ水を吸ってるんだよ(笑)) 
  • 屋内の囲炉裏の煙で茅に付いたススが雨をはじくから。(囲炉裏の真上はあるかも? ススって水をはじくの?吸水して固まらない?)

雨漏りしない理由

茅葺屋根が雨漏りしない理由として上記のような説が唱えられていましたが、近年の研究結果では素晴らしい結果が発表されました。

  • 茅を束状にすると起こる導水効果です。この導水効果で表面だけに雨水が流れるようになっています。更に水の流れる隙間を作ってあげることで下(内部)への浸透を防いでくれているそうです。 この導水効果とは水を導いて流す効果の事を言い、毛細管現象と同じような原理です。 少し分かりやすく言うと小さな雨粒が茅の表面だけを流れながら雨粒同士が連なり大きな塊になって軒下まで流れるというイメージです。 そのため、経年で茅の形状が崩れ隙間が埋まってくると導水効果が無くなり長雨が続くと雨漏りするようです。
  • 屋根形状です。茅葺屋根の傾斜は急勾配です。急勾配にする事によって雨水を留めず軒先まで一気に流れさせることが出来ます。 また雪が降る地域ではこの急勾配のおかげで沢山の雪が降っても自然に地面に落ちてくれます。その為豪雪地域では茅葺屋根が好まれていたようです。
  • イネ科の植物は茎に油分が含まれており耐水性に優れている事が考えられます。

茅葺屋根は現在の建築基準では不適合?

茅葺屋根と言えば世界文化遺産の「白川郷」や五箇山の合掌造りが有名です。東北地方の旧武家屋敷や宿場町では今でも多く茅葺屋根が見られます。また伊勢神宮正宮・別宮などの社寺建築では古式にのっとり茅葺屋根を維持してます。 ですがこれらの建造物は国や自治体による管理のもと維持されており、現実的に新築することは認められません。 市街地などの防火必要な指定地域に新しく建てる建造物の屋根材には不燃材の使用が義務付けられているからです。茅葺屋根の茅はススキやヨシをしっかり乾燥させたものを使用する為燃えやすく、ひとたび火事が起こると全焼を免れる事は出来ません。 また茅葺屋根は強風に弱く台風などの被災に遭いやすいです。  茅葺屋根の建物は天井が高く吹抜けの造りのため、柱や梁など丈夫な木材で造られていますが、現在の建築基準法では耐震性に適さないことも挙げられます。

茅葺屋根工法から学ぶこと

茅葺屋根が雨漏りを防いでいるのは防水ではなく、雨仕舞でした。防水とは、とにかく隙間を塞ぐ事で雨水の侵入を防ぐことです。雨仕舞とは、隙間を利用して雨水流し雨漏りを防いでいます。 茅の隙間による導水効果で雨漏りを防いでいるのに雨仕舞の素人が隙間が開いているから雨漏りしたと勘違いして隙間を塞ぐ処理をするとかえって雨漏りが激しくなることがあります。現在の屋根でも同じよう事があります。瓦屋根やスレート屋根などで、塗装工事や部分補修などで塗料やコーティング処理などで補修ご雨漏りがが発生した、もしくは雨漏りが激しくなった、などの事案あります。雨水の通り道や抜け道を塞いてしまった事から起きる雨漏りが多々あります。また、金属系の屋根や外壁は捨て板などを使用しています。これは雨水屋根の内側に侵入した場合外に排水する役割があります。コーキング剤は数年で劣化し割れてしまいます。コーキングに頼らず雨仕舞で勝負しているのにだいなしです。(´;ω;`)  また毛細管現象による屋根裏への雨水の侵入も考慮してコーキングは屋根表面よりも屋根材の裏側で処理をし雨水の排水がスムーズに流れ出るように施工します。

昔の人はこの導水効果を知っていて茅で屋根を造ろうとしたのかは分かりませんが先人の知恵は凄いですね。通気性、吸音性、断熱性、保温性の高い屋根は現代のように冷暖房設備が無かった時代に夏は涼しく、冬は暖かく快適な生活送れるように造られていて、素晴らしい知恵と技でした。